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実物資産は資産運用の有効な選択肢になるか

銀行に預けていても超低金利なのでお金が増えない状況から、「投資」について関心が持つ人が増えてきました。実際のところ資産運用というと、株式や投資信託といった金融資産を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。

とはいえ、資産には金融資産以外にも実物資産があり、2023年8月末に、金(ゴールド)の国内小売価格が初めて1グラム1万円を超えました。本当の意味で資産運用を目指すなら、それぞれの資産のメリットを活かして大きく増やしたいものです。

今回は、金融資産と実物資産との違いを知り、実物資産が資産運用として有効な選択肢になり得るかを解説していきます。

これから景気は減速していくのか?

2020年の新型コロナウイルスの感染拡大で景気が落ち込んだものの、収束してくると今までの反動から消費が拡大し、米国などは景気が回復してきました。それに加え2022年2月に起きたロシアのウクライナ侵攻によって、資源や食料品が値上がりし、急激なインフレ(物価が上昇すること)に見舞われました。世界各国は、この急激なインフレを防ぐために金利を引き上げました。

一般的に金利を引き上げると景気が減速するといわれます。これは、金利が上がると金融機関は、以前より高い金利で資金調達をしなければならず、企業や個人へ貸出す場合には金利を引き上げるようになります。そうすると、企業や個人はお金を借りにくくなるので、経済活動が抑えられて、景気が減速するというわけです。

企業は投資する資金が減ると、人件費などの経費削減を考え、新規採用を控えたり、雇止めを行ったりすることもあります。景気が後退してくると、経済活動だけではなく労働者の給与水準も上がりにくくなり、消費活動も減ってしまいます。

このように、多くの国々は急激なインフレのために金利を引き上げる政策をとっているのですが、高金利が続けばいずれ世界経済は景気が後退する可能性があり、物価を押し下げる圧力が働くことになります。

世界の国々とは対照的な「金融緩和」を継続している日本の状況

急激なインフレを抑えるために、世界各国は金利を引き上げましたが、日本は金利を引き上げる政策を取っていません。日本の物価は欧米にくらべると緩やかな上昇であることと、物価の上昇が賃金の引き上げを伴っていないため、日銀はインフレ下でもマイナス金利と大規模な金融緩和を続けているのです。この他にも金利が上がると国債の利払いの負担が増し、財政負担が膨らむとも言われています。

日銀は金融市場で国債を買い支える仕組みの長短金利操作を行っています。日銀は金利そのものを上げていませんが、2023年7月28日の日銀金融政策決定会合では、長期金利の上限を0.5%から1.0%までの間で推移することを容認して、金融緩和の持続性を高める政策を取っています

日本と海外の金利コントロールの違いは、為替レートにも影響します。

経済大国の米国は、急激なインフレに対し短期間に金利を何度も引き上げたので、米国債を買ったり、米国の銀行に預金したりする海外の投資家が増えました。そうすることによって、日本円に対してドルが相対的に強くなるので金利が低い日本は円安になり、さらに金利差の拡大によって円安が止まらない状況になっています。

ところで、金利を上げないからと言って、日本でインフレが起こらないというわけではありません。ウクライナ侵攻以来、多くのエネルギー資源や食料品を輸入に頼る日本においても、緩やかですが徐々に物価が上昇しています。国内の物価は、輸入品の物価の上昇に押し上げられているのです。つまり、金利だけが物価変動に影響を与えるわけではないのです。

日銀は、2023年7月28日に物価の見通しを引き上げ、2023年度の消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)は2.5%の上昇になるだろうという内容の展望レポートを公表しました。また総務省の2023年7月分の消費者物価指数の公表によると、生鮮食品を除く総合指数は105.4で、前年同月比で3.1%上昇しています。特に食品や日用品では物価の高い伸びが続き、食料の消費支出が減っていて、国民の生活にも影響が表れています。

日銀は物価目標として、賃上げを伴う物価上昇を重視していますが、賃金の動向はどうなっているのでしょうか。厚生労働省は、「毎月勤労統計調査」を行って、雇用、給与、労働時間について毎月の変動を公表しています。

現実には賃金の上昇率にくらべ物価の上昇率が上回っており、実質的な賃金は下がっている状況が見られます。昨年からの毎月勤労統計調査によれば、2023年6月の実質賃金は物価高のために15か月連続でマイナスです。2023年(令和5年)6月分の毎月勤労統計調査では、物価変動を加味した実質賃金は、前年同月比1.6%減になっています。

実質賃金の推移(前年同月比)

出所:厚生労働省「毎月勤労統計調査」第6表 実質賃金指数

特に日本では米国などとくらべると、賃金が上がりにくいことを前提とした慣行や考え方が根強く残っています。2023年に入って上場企業の一部では、優秀な人材の確保のため新卒の賃金を上げたり、ベースアップを行ったりする企業も出てきました。

しかし、社会全体が賃上げを容認するムードにはなっておらず、物価だけが上がり賃金が上がらなければ、生活は一層厳しいものになっていきます。同じように、物価の上昇に伴って銀行預金の利子も上がっていないため、銀行預金も目減りしていることになります。

金融資産と実物資産の違い

資産運用をするにあたっては、その時々の状況に合わせて何に投資するかで資産額に大きく差が生じます。運用する資産に偏りがあると、金融危機や急激なインフレなどで資産が目減りするリスクに備えることが難しくなります。収益の柱を増やす意味でも、資産の種類や特徴を押さえて投資していくことは有益です。

資産には、「実物資産」「金融資産」の2つの種類があります。

実物資産は、形があり、それ自体に価値がある資産です。純金やプラチナなどの貴金属や、土地、建物などの不動産があります。この他にも希少価値があるオールドコイン、絵画、ウイスキーやワインなどのコレクション系のものを収集する人もいます。

実物資産は、金融危機などがあっても価値が急落しにくく、特に金は「有事の金」とか「安定資産」だといわれています。また、実物資産はインフレに強いといった特徴があります。物価の上昇とともに価値が上がっていくからです。

ただし、実物資産は、損傷や盗難で価値を失ってしまうことがあります。また、保有し続けるのにコストがかかり、好きなタイミングで現金化できないといった流通性が低いといったデメリットもあります。実物資産には、売却時以外に収益を生み出しにくいものもあり、投資の対象としてはメリットが大きくないものもあります。

一方、実物資産の対局にあるのが「金融資産」です。現金や預貯金、株式、投資信託、債券、生命保険、小切手などがあります。配当や利金、値段の上昇といった価値が増大することを狙って運用する資産です。比較的取引単位が小さく、資産運用が始めやすい特徴があります。また金融資産は現金化がしやすく、価格の透明性が高く、取引や管理コストが低いメリットがあります。

しかし、経済危機や地政学リスクが高まると急落するリスクがあります。その状況では、インフレに強い資産とは言えません。また、株式などは投資している会社が倒産すると価値がなくなってしまうこともあります。金融資産は、経済が安定しているときの投資商品だといえます。

金融資産と実物資産の比較

図表:筆者作成

インフレを踏まえ堅実に資産を増やすなら実物資産は有効な選択肢

資産といっても、実物資産と金融資産にはそれぞれ特徴があり、メリットとデメリットがあることがお分かりでしょう。そこで、安定して資産を増やしたいと考える方には、実物資産と金融資産をバランスよく保有することで、リスクが分散できます

特に実物資産は、世界情勢に大きな変化があったとしても値崩れしにくく、持っているだけで価値が上がる資産です。インフレがこのまま続くと、実物資産も値上がりすることが考えられます。ですから、資産運用においては、実物資産を持つことは有効な選択肢になり得るといえます。

ここで過去10年間の米国のNYダウと米国のNY金先物の値動きを比較してみましょう。

NYダウ

引用:松井証券HPのチャート 

NY金先物

引用:松井証券HPのチャート

たとえば、2020年3月のコロナショックや2022年2月のウクライナ侵攻時に注目すると、戦争や経済危機が高まると、金は需要と価格が上昇する傾向があります。一般的に金相場と株価は逆相関関係にあるといわれています。

株価が上昇して価格が上がれば、金の需要が減り金の価格は下がります。また、金の価格が上昇すれば株価が下がります。このように実物資産は、金融資産とは違った値動きをするので、金融資産が目減りしてしまった場合のリスクヘッジができます。

しかし実際の相場では、セオリーどおりには動かず、株価も金の価格も上がったということもあるので、注意は必要です。

現段階では世界的なインフレによって経済後退が懸念されており、実物資産への投資は資産を目減りさせずに危機を乗り越えられる可能性が高いといえます。そうした世界経済の不安定さ増す地合いから、実物資産の金に資産を移そうという流れが強まっています。

実物資産の中で最も利益を安定して得やすいのは、不動産投資です。不動産は他人に貸し出すことで売却益以外の賃料や地代といった新たな利益を生み出せるからです。不動産投資が強い理由には、ローンを利用することで大きな利益が見込めることや税金対策ができることもあげられます。

資産運用には、「資産の三分法」という投資の法則があります。資産を異なる性質を持つ3つの資産(株式・投資信託・債券、預貯金、不動産)に分けて保有するという手法です。

違う資産を合わせ持つことで、

リスク分散ができる

・長期的に安定した利益を得ることができ、長期的な資産形成ができる

・インフレ・デフレのリスクヘッジができる

などのメリットがあります。

資産形成を目指すのならば、金融資産と実物資産を組み合わせ、ご自身の投資目的やリスク許容度を考え、適切な配分を選択することが資産運用で大切なことになります。

池田幸代  株式会社ブリエ 代表取締役

証券会社に勤務後、結婚。長年の土地問題を解決したいという思いから、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)を取得。不動産賃貸業経営。「お客様の夢と希望とともに」をキャッチフレーズに2016年に会社設立。福岡を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー

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